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本研究プログラムにおける中心研究者(山海嘉之)が『サイバニクス』技術を駆使した最先端人支援技術研究を推進する上で必要な研究テーマをそれぞれの分野の先生に加わっていただき、推進しています。

人の歩行モデルの構築について ---「そもそもモデルとは?制御とは?」からの考察---

大須賀公一

大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻

杉本靖博

大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻

1.はじめに

HALを装着した人がHALと調和して運動することが一つの理想形である。そのための制御方策を具現化するための最も基礎になるのが「動きあるモノの理解と制御とは?」という問に対する答えを考察することである。本稿では「そもそも動きあるモノをどう理解するか?」、「理解したモノをどう制御するか?」、そしてそれらを踏まえて一般論へとどう展開すればいいかについて考察する。その一つの方向が「マルチポートシステム」という捉え方である。

2. 動きあるモノをどう捉える?

目の前にある「動きあるモノ」をどう捉えるかはそれを見ている「主体(私)」の「意図(下心)」に依存して変化する。我々は最終目標が「操る」こととするので、この場合には、「制御の目」で観ることが適している。すなわち、以下が成り立つ。

問:動きあるモノを理解して操りたい。

仮説:動きあるモノの中に埋め込まれている制御則を見いだすことは、そのものの作動原理を理解することになる。

回答:動きあるモノを制御系として見做したときの「制御則」を特定することで「理解が進む」。理解で特定された「制御則」を制御則の設計という立場で改善することで「制御ができる」。

ただし、制御系とみなすとき、従来の制御工学のように、制御対象、制御則、場を独立に身言い出そうとするのではなく、そのような先入観を取払い(純粋経験的[1]・現象学的[2]捉え方)3者が不可分で変動するという立場を重要視し、「陰的制御則」という考え方を導入する。

このような観点で動きあるモノを観るための素材として「受動的動歩行」について探求している。具体的には、全長7mの傾斜角可変坂を製作し、その坂道を歩き下る様々な受動的動歩行機を開発し、その歩行に関する陰的制御則の摘出をおこなってきている。これは人の歩行における最も根底に存在する歩行原理の解明になると考えている。

また、人の筋骨格系が人の運動制御に対して陰的制御的な役割を果たしていることがわかってきた。この結果は人体の運動制御を行うためにデリケートなフィードバック制御は必ずしも必要としない結果を示唆する。

3. 動きあるモノをどう制御する?

動きあるモノ自体の中に埋め込まれている制御則がみつかると動きに対する理解が深まる。次に考えることは、その目の前にある動きあるモノに何等かの入力を与えることで「下心」を実現することである。その際、従来からの制御工学のようにあたかも制御対象に対して入力と出力が定まっているかのような先入観で観るのではなく、ニュートラルな目で見直すことが重要である。

上の実験機はいずれも、「歩行」するが、従来のロボットのように、脚関節そのものに入力を与えているのではなく、胴体の運動を入力としている。そして結果として歩行が発現するというものである。これらの実験機は「歩くと胴体が揺れる。そうすると胴体を揺らすと歩くか?」 という入出力を逆転させることの可能性をポジティブに示したものである。

4. マルチポートシステムとは?

前章から示唆されることを一般化すると下図のような「マルチポートシステム」という考え方が生まれる。これは目の前の動きあるモノに属するポートに対してあらかじめ入出力という属性をさだめることしないところから考察を始めようという態度である。このような考え方で人-HAL系を再認識すると一体感のある制御系が構成できるものと考えられる。

参考文献
小坂国継:西田幾多郎の思想,講談社学術文庫,2002.
西研:哲学的思考-フッサール現象学の核心-,ちくま学芸文庫,2005.

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